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問題行動のとらえ方とその指導
2002/12/02 第7回
一、 不適応行動は、どのようにしておきるのか?
1 教室で乱暴な行動をする中学生(不適応行動発生のメカニズムの解明)
※朝日新聞『しつけ教師』という投稿欄での(中2男子)A君の母からの投稿。
A君は健康で礼儀正しく頭もいい、いわゆる優等生だった。そんなわけで母親にとってA君は自慢の息子だった。
しかし、中学校に入ってしばらくしてA君は変わってしまった。勉強している友達にちょっかいを出したり、先生の
あげ足取り、バケツを持ってきて友達に水をかける・・・などの行動が出てきた。そこで担任の先生がA君を叱った。
するとA君は「明日からしません」とその時は反省するものの、翌日になるとまた同じことを繰り返した。そこで、
先生は母親を呼んで伝えると、母親は息子を家で厳しく叱った。しかし効き目はみられなかった。母親はギブアップ
し、新聞に「どうすればいいでしょうか?」と相談を載せた。
2 何が原因で、自我崩壊の危機状態が出現するのか?
人間をゴム風船に例える「風船理論」。
・風船=自我。
・吹き込む息=不満感、いらいら感が含まれている欲求不満のガス。
・風船が破裂する前に少しずつでも吐き出すことが大切。それがA君の場合ちょっかいや先生のあげ足取りだった。
・吐き出せる子どもはまだいい。吐き出せない子どもがもっともっと困る。
(1) 不満のガスを送り込む発生源の存在
◯母親
・母=教育熱心
・A君が3才の頃勉強部屋を用意し、手伝いや友達と遊ばせないで勉強だけをさせた。
・優等生作り
◯担任
・「どんな生徒?」と聞くと「勉強はできるが友達に人気がない。学級委員の選挙でも誰も一票もいれなかった」
・中2ぐらいだと親より友達に相談をするのだが、A君には気の許せる友達がいなかった。
◯A君
・「学校はどう?」と聞くと「運動が好きなんだ。野球をやりたいのに誰も仲間にいれてくれない。だからいつも
運動場の隅で指をくわえて見ているだけなんだ」
・「お母さんは勉強しろとしか言わない。家にも学校にも居場所がない。」
(2)安全弁の喪失
「A君は安全弁がなくなっている」
例えば、ボイラーは炊きすぎても爆発しない。それは安全弁があるから。安全弁で上手く循環させている。
人間の心の風船の中にも安全弁があればいいはず。
<安全弁>…人によってさまざま
・友達がいること
・スポーツで汗を流すこと
・歌を歌ったり聞いたりして、自分の気持ちを発散させる
不適応が起こるのは(1)発生源があること(2)安全弁がないこと
二、不適応行動を防止し、強い自我を育てるために
1 許容量の大きい風船の人間を育てること
(1)適応とは、迂回路によって目標を育てること
☆ケラー(心理学者)の実験☆
塀と垣根の間に金網をはり、その向こう側に餌を置く。
〜鶏の場合〜
1: 直進してみた。
2: 金網に激突し、鶏はあきらめて金網の近くにへたりこんでしまった。
〜犬の場合〜
1: 直進してみた。
2: 金網に激突した。
3: 迂回して餌にありついた。
<<この実験からわかること>>
◎迂回路は鶏のためにも存在していたが、犬には見てた迂回路が鶏には見えなかった。
◎鶏が2で取った行動は「非社会的行動」(誰にも迷惑はかけない)
◎もし金網を突破していけば、それは「反社会的行動」
◎つまり金網=障害物=他人の目・ルール・法律
(2)迂回路がとれるための人間的条件
1:『迂回路をよく教える』
・「こんな場面の時はこんな迂回路があるよ」と、日常の生活の中で教える。
・やっていい事とやってはいけない事を教える。
2:『迂回路を発見できる目を養う』
・1回ではできないので失敗経験をつむ。
・この場面でやって良いことは、何かを発見できること。
3:『自制心』
・迂回路を通るということは、一時的に餌に背を向けること=自分の欲求を制止すること。
・行動に負けないだけの自制力を持つこと。
(3)大きい風船こそが、好ましい人間の基盤である
さりとて、結論としてやっぱり大きい風船を作りましょう。ってこと。
2 どうしたら、許容量の大きい人間を育てられるか?
イギリス人のいう「ヒューマー」の感覚を身につけた人だ。
どうゆうこと?=どんなピンチでも切り抜けられる人間。自分に対する自信がなければならない。
(1)がっちりとした愛の基盤を与えること
母親の赤ちゃんに対する母乳のあげ方で、たくましくもひ弱にもなる。
・ゆったりとした気分で話しかけながらあげると、たくましい子どもに。
・内職をしながら、イライラし、邪険に飲ませると、何人をも信じられない孤弱した子どもになる。
(2)成就(成功感)の喜びをしばしば体験させること
自分の力より1段か2段上のものにチャレンジし、苦戦しながらもできる。
(3)やって良いことと悪いことのけじめをしっかり教えこむこと
誉めるばかりが良いことではない。
<<けじめを教えることの意味>>
・良き社会人としてマスターして置かなければならない迂回路を教え込むこと
・大きい風船になれるよう、修練(いろいろな経験)をさせる
・小さな失敗をさせる。優等生にはそれがない。
三 教師に課せられた課題
1 子どもの環境から、子どもを不健康にする要因を取り除く
(1)良い家庭作りを支援する
ア 家庭における愛の在り方と不適応
イ 家庭におけるしつけの在り方と不適応の関係
○ その家庭の中に、子どもに畏敬される人がいること
・お父さん的な存在(厳しいお父さん)がいる。
・愛情をたくさんそそいでくれる人がいる。
・全部包んでくれる存在と、厳しい存在がいるのが望ましい。
○ しつけに一貫性があること
○ 親たちに、心のやすらぎを与える方策をとる
相談電話など。親が安全弁になってあげれるように。
○ 教師は、親のカウンセラーにならねばならない。
いかに親身になって聞いてあげれるかがポイント。