第3章 認知的教育と認知的領域
出典:Reigeluth, C.M., & Moore, J. (1999). Cognitive education and the cognitive domain (Chapter 3). In C.M. Reigeluth (Ed.). Instructional-Design Theories and Models Vol.II: A New Paradigm of Instructional Theory. LEA, 51-68.


担当者:鈴木克明(岩手県立大学教授)ksuzuki@soft.iwate-pu.ac.jp

■目次■


第3章の概要
表3.2:認知領域の目標分類枠比較
表3.3:ID理論比較の枠組み
(1)学習のタイプ
(2)学習の制御
(3)学習の焦点
(4)グルーピング
(5)インタラクション
(6)学習への支援
リンク集

■第3章の概要■

背景
工業社会のID理論では認知領域の「記憶」と「手続き的技能」のみを扱ってきた。情報社会では、それらの学習成果は引き続き重要ではあるが、より高度な学習への要求が高まっている。ID理論も、その要求に答え、学習経験のオーダーメイド化・情報技術やともに学ぶ者などの活用を可能にするものへと変化している。本書には、学びを如何に支援するかについての広範囲な考え方が紹介されている。そこには、第1巻以後に台頭した構成主義の影響も大きく反映されている。

目的
(1)第4章から第18章で扱われている認知領域のID理論を紹介すること。
(2)様々なID理論を比較検討し、共通点や相違点を明らかにするための枠組みを提案すること。

学習の種類
・学習を認知・情意・運動の3領域に分けることは定説
・認知領域の中をより低次から高次の目標に分類する枠組みとしては、ブルームらによるものが業界標準(共通語)。その他の分類との比較は表3.2を参照。

ID理論比較の枠組み
表3.3に本書に収蔵されている認知領域のID理論を比較するための枠組みを示す。


■表3.2:認知領域の目標分類枠比較■(p.54)

認知領域の中をより低次から高次の目標に分類する枠組みとしては、ブルームらによるものが業界標準(共通語)。その他の分類との比較を示す。
ブルームガニェオーズベルアンダーソンメリルライゲルース(注1)
知識言語情報暗記学習宣言的知識文字通りの記憶情報の記憶(注2)
理解有意味学習パラフレーズ記憶関係の理解(注3)
応用知的技能なし手続的知識一般法則の利用技能の応用(注4)
分析
統合
評価
認知的方略なしなし一般法則の発見一般技能の応用(注5)
(注1)Reigeluthの列は、上記5つを統合した本章における提案。
(注2)行動主義でもっぱら研究された後、認知主義でも記憶術やメタ認知技能の対象とされた領域。「理解」とは教授方略が異なるので、ガニェの「言語情報」を2分した。
(注3)理解とは関係の把握であり、スキーマ研究の対象として20-30年の間知見が蓄積されてきたが、未だに教えたり評価したりするのが困難な領域。
(注4)学校・職能教育共通の領域で、知識・理解とは異なる教授方法が要求される。知識よりは困難だが、理解よりは容易に教授・評価が可能。
(注5)高次の考える力、学習方略、メタ認知技能などを含む内容領域非依存の一般的学習能力で、長期間かけて習得される。求められる教授方略が類似しているのでブルームの3レベルを統合した。

※注は鈴木が本文を要約して追加した。オリジナルは下記のとおり。
Bloom,B.S. (Ed.).(1956). Taxonomy of educational objectives. Handbook I: Cognitive domain. New York: David Mckay.
Gagne,R.M.(1985). The conditions of learning (4th Ed.). New York: Holt, Rinehart, & Winston.
Ausubel,D.P.(1968). The psychology of meaningful verbal learning. New York: Grune & Stratton.
Anderson,J.R. (1983). The architecture of cognition. Cambridge, MA: Harvard University Press.
Merrill,M.D. (1983). Component display theory. The GreenBook I, 279-333.


■表3.3:ID理論比較の枠組み■(p.55)

本書に収蔵されている認知領域のID理論を比較するための枠組みを示す。
(1)学習のタイプ この理論で扱われているのはどのタイプの学習か?(情報の記憶・関係の理解・技能の応用・一般的技能の応用)
(2)学習の制御 学習プロセスを制御するのは誰か:教師、生徒、それともID者?(教師中心vs生徒中心)
(3)学習の焦点 学習活動は何を中心に展開するか:特定のトピック、特定の問題、あるいはそれ以外?(トピックvs問題×特定領域[domain]vs複合領域[interdesciplinary]の2軸)
(4)グルーピング 学習者はどのようにグルーピングされるか:個別に学習を進めるか、それとも他者と一緒か?(個人vsペアvsチームvsグループ)
(5)インタラクション やりとりの基本はどこか:教師と生徒、生徒と生徒、生徒と教材?(人間:教師、他生徒、その他。非人間:ツール、情報、環境/manipulatives、その他)
(6)学習への支援 学習者にどの程度のどんな支援が与えられるか:教師や教材からの認知的サポートは何か、どんなリソースが準備されるか、どんな心情的[emotional]サポートが与えられるか?(認知的×心情的)
注:括弧( )内の記述は、本章の図3.1から鈴木が追加した。


      ■(1)学習のタイプ■表3.3を参照

この理論で扱われているのはどのタイプの学習か?

ID理論(章)101112131415161718
情報の記憶              
関係の理解              
技能の応用              
一般的技能の応用         
注:こんな表を作ることが必要かな。4-8,12,16-18については言及がないので空欄。◎は明示的にメタ認知スキルを教えるのが重要であると主張しているのに対して、?はモデルの中で用いて教えているのみという差があると説明している。


      ■(2)学習の制御■表3.3を参照

伝統的には学習プロセスを制御するのは教師であったが、新しいパラダイムでは、学習者中心の環境を構築することがテーマになっている。教師中心vs生徒中心に二分されるのではなく、どの程度どちらに近いかの問題。状況次第でその効果は変わるので、何でも学習者中心であればよいというわけではない。

学習者制御についての質問
1.誰が教育目標を決めるか?
2.誰が目標到達への方法を決めるか?
3.誰が内容を選択するか?
4.誰がサポートとリソースのレベルと種類を決めるか?
5.誰がサポートとリソースを使うタイミングを決めるか?
6.誰が学習活動として何をどの順序でやるかを決めるか?
7.誰が学習を評価するか?
ーーーーーーー
教師中心寄り:4
学習者中心寄り:6
書いていない:5789101112131415161718(さあどっち?)
ーーーーーーー



      ■(3)学習の焦点■表3.3を参照

学習活動は何を中心に展開するか:特定のトピック、特定の問題、あるいはそれ以外?(トピックvs問題×特定領域[domain]vs複合領域[interdesciplinary]の2軸)
ーーーーーーー
トピックで特定領域:5
問題で特定・複合領域:8
書いていない:4679101112131415161718(さあどっち?)
ーーーーーーー
※ここで言う「トピック」とはある学問領域の体系のようなもので、「問題」とは解決すべき課題のようなものを指していると思われる。学問体系の中心となる基礎的な概念についての理解を深めるアプローチ(第5章)と、ある問題を解決するために知識を総動員させられるように仮想的に作られたシナリオに基づいたアプローチ(第8章)を比較して説明している。


      ■(4)グルーピング■表3.3を参照

学習者がどのようにグルーピングされるかについては、不問とするID理論が多い中で、グルーピングが重要な鍵を握ると主張するID理論もある。

便宜上の区分け
ーーーーーーー
個人
ペア
チーム(3-6人):11(長期間協働する異質なメンバー)
グループ(7人以上)
ーーーーーーー


     ■(5)インタラクション■表3.3を参照

ID理論を用いた結果として生じるインタラクションを特定しているものもある。
例:
12:すべての種類を総動員するが、人間系を重視
15:教師と生徒間のインタラクションに限定して理論化



      ■(6)学習への支援■表3.3を参照

認知的サポートとは、学習内容を理解して習熟する助けになる印刷教材、IT資源、助言者とのインタラクション、連続的な情報へのアクセス、フィードバック、評価など。
心情的なサポートとは、学習者の態度形成、動機づけ、感情、自信などを支えるもの。
両者は、明確に区別できない場合もあるし、どちらかにウェイトづけされている場合もある。

例:
7:認知的サポートにウェートが強い
10:コーチングや足場づくりで双方をサポート



■事例の領域についての学習を深めるリンク集■

該当なし

■認知領域に関するリンク集■

ブルームの目標分類学 鈴木克明(1989)「11.教授目標の分類について述べよ」 沼野一男・平沢茂編著『教育の方法・技術』学文社、分担執筆
ガニェの5つの学習成果 鈴木克明(1995)「第3章 授業のねらいを分類する枠組み」『放送利用からの授業デザイナー入門〜若い先生へのメッセージ〜』財団法人 日本放送教育協会
オーズベルの先行オーガナイザ
(有意味受容学習)
リンク未整備
アンダーソンの宣言型・手続型知識 リンク未整備
メリルのCDT(画面構成理論) CDT(TIPサイト):英語ですが、3×4の学習課題の種類の図がある。


■コメント・疑問点■



←トップへ
←鈴木研究室ホーム
岩手県立大学ソフトウェア情報学部
岩手県立大学学内ホーム
by Katsuaki Suzuki, Ph.D., Graduate School of Software and Information Science, Iwate Prefectural University. 



Sorry not to having an English version.