The Current Status of Computer Education at Elementary Schools
〜Findings of fieldwork at a class in the second grade〜
9351162 芳賀 容子
鈴木 克明先生指導
近年コンピュータの普及は目覚ましく、教育のあらゆる場面で活用されている。小学校においても着々と導入が進み、新しい学力観のもと情報活用能力の育成、国際理解教育、個性化、コンピュータに慣れ親しむことなどをめざしてコンピュータを用いた様々な実践が行われている。
コンピュータを用いることによって、これまでの一斉授業では不可能だったことが可能となり人々の期待を集めているが、同時にこれまでの授業形態とのなじみにくさから、さまざまな問題も生じ、盛んに研究が行われている。
本研究では、コンピュータが実際の教育現場のなかでどのように利用され、一斉授業とどのような違いを持っているのかを一斉授業とコンピュータを用いた授業の両方を観察することによって明らかにしたい。
本研究では、コンピュータ教育の現状を”ありのまま”見たいと考えた。そのために子どもたちひとりひとりの性格を把握し普段の姿を知った上で、一斉授業での様子、コンピュータを用いた授業での様子ではどのような違いがあるのかに注目し観察したい。
しかし、自分が観察することでいわゆる授業参観のように、先生が授業を用意してしまったり、子どもがそわそわしてしまっては、本当の姿を見ることができない。自分がいても何も変わらない、格好つけず普段通りの姿でいてくれる、という状況が必要である。
その状況をつくり、自分の目でじっくりと観察するために有効な方法として、人類学でつちかわれてきたフィールドワークと量的な研究法のみへの傾倒が反省されて盛んになってきた質的研究法が考えられる。ここでは、完全な観察者としての立場プラスさらに踏み出した参加者としての立場も取り入れた参与観察を目指し、フィールドワークの手法を用いた。
研究協力校であるO村立O小学校に平成8年5月〜12月の8ヵ月にわたって1週間に数回通い(計37回)、2年×組を対象としたフィールドワークを行った。
O小学校は、平成7年に県教育委員会より情報教育の研究指定校として指定され、コンピュータを導入して3年目の学校である。パソコンは、コンピュータ室に22台( NEC pc9821)が4列に配置され、オープンスペースである多目的室に23台(NEC pc9821 cb3)が配置されている。コンピュータの利用は各クラス毎週1回コンピュータ室と多目的室の使用を割り当てられており、授業への利用の仕方は各担任教諭に任されている。
2年×組では一斉授業、コンピュータを用いた授業、学級活動などを含め、一日中行動を共にして参与観察を行った。子どもたちの様子を中心に観察し、気付いたことはその場で手書きでメモをとった。そのメモをもとにコンピュータ上に詳細に記録し直し、1日毎に「授業メモ」としてまとめた。また、書きためた「授業メモ」を子どもごとに整理しなおし、「子どもメモ」としてまとめた。
必要に応じてビデオカメラを用い、授業の様子を撮影した。
観察から得られた知見は次のものであった。
4―1.こどもの意識の行き先が変わる
一斉授業では、子どもたちは先生と直接話そうとする。自分の考えを先生に向かって話しかけ、先生からの反応を待っている。先生と自分の会話がしたいと思っているようで、友達との会話は少ない。それがコンピュータを用いた授業になると、先生だけに向かっていたこどもの意識が、コンピュータや友達などに分散していく。一斉授業ではほとんどなかった子ども同志の会話、相談、教えあいが増える。
たとえば、12月6日の国語の一斉授業(教室)で、先生がみんなに「馬」という漢字がどんな形に見えるかを問いかけると、こどもたちが自分の考えを先生に伝えようと次々に黒板の前にいる先生のところに出て行ってしまった場面があった。これは、先生に話を聞いてもらいたいという一心で先生のもとに駆け寄って行ってしまうというよく見られた場面である。
逆に多目的室でのコンピュータを用いた授業では、子どもたちはそれぞれのコンピュータに向かって自分たちの作業に熱中する。先生に話しかけるのは、自分たちのコンピュータ上の作品を見てもらいたいとき、あるいは友達に聞いてもわからないことがあった場合だけになり、同じコンピュータを使っている友達との会話が多くなる。
このように、一斉授業では先生のほうばかり見ていた子どもたちが、コンピュータ、コンピュータ上の自分の作品,友達などいろんなものに目を向け始めるのがコンピュータを用いた授業での特色であった。
4―2.変わる子
子どもたちはそれぞれ一番いきいきとしているときがある。ゆまちゃんは計算が得意で、算数の時間は特にはりきっているのがわかるし、スポーツが得意なまさるくんは体育やドッジボール大会のときの存在感が大きい。
同じように、コンピュータの授業になると目立つ子がいる。さとしくんはパソコンが得意で、先生もそれを認めている。二人は一斉授業のときにも挙手、発言をしているし、授業に参加している。しかし、コンピュータの授業でのじっと画面をみつめて、熱心に作業をしている姿のほうが印象的であった。友達はもちろん、先生に頼られることもあり、自信にあふれているように見えた。
逆に、コンピュータの授業中は元気がないという子もいる。みほちゃんは、(一斉)授業中にわからないことはわからないと言ってすぐに質問できる子で、他の子よりも理解するのは遅いが授業にしっかりと参加している。生活科の『おまつりをしよう』という授業でのみんなと協力しておみこしをつくったりという共同作業では、進んで友達の手伝いをしたりととても楽しそうであった。しかし、コンピュータの時間は消極的で、いつも友達のやることを見ているだけであった。同じ『おまつりをしよう』の授業でもコンピュータを使った授業になると、友達の操作をじっと見ているだけで、コンピュータに触ろうとしない。いつもの積極的な態度がここでは見られないのである。
このように、コンピュータの時間に生き生きとしてくる子もいれば、良いところが出てこない子もいる。その結果、コンピュータ嫌いの子どもが出てしまうかもしれない。しかし、それぞれ得意なこと、好きなことが違うというだけであって、”コンピュータ”という分野がひとつ加わったことでその時間に生き生きとすることができる子どもが増えたというだけのことではないだろうか。
4―3.他の授業と変わりないコンピュータ授業
コンピュータを使った授業というと、なんだかものすごいことをするような印象を持っていたのだが、子どもたちにとっては他の授業となんら変わりないもののようである。先生たちは苦労もあるだろうし、苦手意識のある方もいるだろうし、まだまだ特別なものという意識を捨てきれない人もいるだとう。しかし、こどもたちにとっては「次はコンピュータ室でお絵描きをします」と「次は体育館でドッジボールするよ」とは同じ次元のことのようだ。特にこの子どもたちは一年生のときからコンピュータの授業を受けてきたこともあってか、とても自然に受け止めているように見える。授業でコンピュータを使うことは良いことだ、悪いことだと様々な意見があるが、この子どもたちを見ているとあまりにも自然なことになっているので、そんなことを議論していることが意味のないことのように思えてくる。漢字やカタカナでさえもわかっていない二年生にコンピュータを教えてどうするのだろうかと疑問に思ったこともあったが、漢字を覚えていくとの同じようにコンピュータについても覚えていってもいいのではないかと思えてきた。
4―4.その他の知見
他に、次に挙げる知見が得られた。詳細は論文に記す。
こどもの変容に関する知見
・「子どもが先生に教える」
・「教えられていないことを発見する」
・「子ども同志の教えあいを奨励する」
先生の変容に関する知見
・「先生の声かけの仕方が変わる」
・「こどもに質問をされたときの先生の対応が変 わる」
コンピュータ授業の特徴
・「先生のコントロールが及ばなくなる」
・「雰囲気が開放的になる」
・「ドリル学習」
・「コンピュータに触らない子」
・「競争」
本研究では、現場に足を運び、現場の空気、子どもたちひとりひとりの性格、人間関係などを把握した上で授業を観察し、一斉授業とコンピュータを用いた授業での子どもたちの違いに注目してきた。
その結果、コンピュータを用いることによって、子ども同士の関わりあいが増え、教師の統制や制限がないぶん、自由にのびのびとした学習が行われていること、しかし同時に、先生の目が届かないからこそ、コンピュータに触れない子や、コンピュータが嫌いな子も出てきていることがわかった。
また、自分が観察を通して得た知見をもとにS先生にインタビューを行ったところ、コンピュータという道具が加わったことで表現の幅が広がり、子どもの興味をひくおもしろい授業をできるようになったが、継続的に授業に活用していくには、かなりの時間を必要とすること、カリキュラムに含まれていないなどの学校のシステムの問題など様々な障害があることを強く感じた。
◇参考文献
大谷尚、1995、「コンピュータを用いた授業を対象とする質的研究の試み」、日本教育工学雑誌18(3/4),p189-197
山内祐平、1995、「総合学習における マルチメディア利用の意味〜質的研究法を用いて〜」日本教育工学会第11大会JET.Nov.3-4,
p37-38