第5章「理解のための教授と学習」
出典:David N. Perkins & Chris Unger ."Teaching and Learning for Understanding (Chapter 5)". In C. M. Reigeluth (Ed.). [Instructional-Design Theories and Models Vol.||]:
A New Paradigm of Instructional Theory. LEA.
担当者:岡本恭介(岩手県立大学大学院・学生)g231a009@edu.soft.iwate-pu.ac.jp
このページには[Instructional-Design Theories and Models Vol.||]という本の第5章「理解のための教授と学習」(Teaching and Learning for Understanding )を読んで、その内容を例を出しながら説明しています。下の目次はこのページの構成になっています。
◆概要
◆理解のための学習の4つの要素(表)
◆TfUフレームワークの応用範囲・注意点
◆理解のために学習の4つの要素(説明)
T.発展性のある題材(Generative topics)
U.理解のための目的(Understanding goals)
V.理解のための学習活動(Understanding performance)
W.学習中の評価(Ongoing Assessment)
◆関節に関するリンク集
◆議論した内容・意見など
目次に記してある各項目の説明文には、●と○が付いている例があります。これは、「●:本に記述されていた例、○:自分で考えた例」と分けてあります。例以外の説明文は全て、本から訳出したものです。また、赤字で書いてある部分は、例が無く、自身が無い部分です。
ここでは、理解を促進する教授設計のためのフレームワークを提供している。このフレームワークはTfU(TfU:Teaching for Understanding)フレームワークと呼ばれるものである。フレームワークは4つのカテゴリー(Generative topics, Understanding goals, Understanding performance, Ongoing assessment )に分けてあり、そのことについて詳しく記述されている。この4カテゴリーは「題材の選択」「学習目標」「学習活動」「評価」に焦点を当てている。
TfUフレームワークの応用範囲はとても広い。それは、対象者が一般の教師だけではなく、大学教授、カリキュラム開発者などにまでわたり、このフレームワークの自由度が高いためである。このフレームワークの4要素「発展性のある題材」「理解のための目的」「理解のための学習活動」「学習中の評価」というものは、学習者や使用する範囲などによってそれぞれ違うものになり、自由度が高いのである。また、TfUを使うためには時間がかかる。さらに、理解を得るための教授方法は、TfUの方法であろうとなかろうと、成果をあげるためには十分な時間が必要である。理解というものは何もせずにはやってこないし、すぐには手に入れられない。もし、どんな理由であれ、現実的に時間や労力が割り当てることができないならば、TfUもしくは理解のための教授法は実際の成果より低い成果が出てくるだろう。
T.発展性のある題材(Generative topics) |
発展性のある題材のテーマは、教師やカリキュラム開発者に豊富で啓蒙的な特徴を持つ題材を選択させる。その特徴とは理解を得るための構成主義のアプローチ、もしくは独創的でない題材を再構成したり、再記述するといった構成主義のアプローチを促すものである。
●例えば、テーマ「体の関節(the joints of the body)」は様々に見ることができ、より豊富で、魅力的な題材になる:「車輪やレバー、他の単純機械の関節部分」「スポーツやダンスにおける体の関節」もしくは「体の関節の負傷、老化」
よりシステマティックにするために、よい発展性のある題材にはどのような共通点があるのか?教師と時間をかけて協調作業をすることで、筆者たちは発展性のある題材を選択する上の基準として4つ
見出した。
1.専門領域の中心となるもの(Central to a domain or discipline)
よい発展性のある題材とは専門領域の中心となるものである。
●例えば、「体の関節(the joints of the body)」という題材を考えてみる。そのとき、車の台車部分におけるジョイント(関節部分)を考えたとき、台車の基礎的な部品として見られる。また、スポーツやダンス、医学的な問題を考えたときは、体の関節が人の動きにどのように関わっているか、ということを考え
ることができる。このように、機械や人体の「体の関節」という題材は、より中心的な題材となる。
2.学習者にとって利用しやすくおもしろいもの(Accessible and interesting to the students)
よい発展性のある題材とは利用しやすく、魅力的なものである。そのような題材であれば、学生は熱中しつつ、効果的に題材に取り組むことができる。
●例えば、車のような機械を考えたとき、シャフトの力を車輪にムラ無く動かすためにジョイント(関節部分)がある。このように車が見慣れているので、その中の機械は学習者にとって、興味が湧きやすい対象であろう。また、スポーツやダンス、健康における人体の関節を考えたとき、自分自身の問題になりやすいので、興味が湧きやすいものだろう。
3.教師にとっておもしろいもの(Interesting to teachers)
教師の興味は重要なものである。題材に対して情熱を持っている教師は、より熱意を持って、想像的に取り組む。そして、その題材の準備を念入りにして、学生を真剣に取り組ませ、深い学習を行わせることができる。
○例えば、運動することに興味のある先生は「スポーツやダンスにおける関節の動き」という題材に興味を持つかもしれない。この先生がこのような題材を選んだ場合、自分のスポーツの経験を踏まえて、話を進め、深い内容にできるだろう。陸上競技をやっていた先生なら、プロ選手と学生の関節の動きを比較し、早く走るための動きを追求する、といったことをやるかもしれない。他の題材「機械における関節」などといったものでも同じことが言えるだろう。
4.種々の専門領域や文脈へつながりやすいもの(Connectable to diverse disciplines and contexts)
よい発展性のある題材とは専門領域を越えて、様々なテーマに関連させることができ、「底なし」の特徴を持っている。
○例えば、スポーツをする上での関節の動きを考えたとき、関節をどのように動かせば速く動けるか、といったようなテーマや、「走る」という動作をしたときに関節はどのような方向にどれくらいの力がかかっているか、といったような力学的なテーマにもなる。このように、よい発展性のある題材は様々なテーマへと発展する。
U.理解のための目的(Understanding goals) |
皮肉にも、発展性のある題材を考えることはTfUをより難しくさせる。
●例えば、「体の関節」というテーマを考えるとする。そのとき、題材としては、「体の関節が違った種類のスポーツやダンスにおいてどのように機能するのか」「運動をする上で、関節
の動きはどのように制限されるのか」「関節が負傷を負うとき、どのように力が作用するのか」といったものなどが考えられる。
このように、挙げればキリがなくなってしまうのである。したがって、TfUは発展性のある題材の広がりを正確に焦点化するための基準を提唱する。それはただ、学習者が理解するために何を努力すべきか、ということを見ればいいのである。この節では、その基準を3つ紹介する。
1.明白で誰にでもわかる目的(Explicit and public goals)
目的を記述するとき「理解する(understand)」「正しく認識する(appreciate)」という表現ではあいまいである。目的を表現する簡単な方法(よりユーザーにやさしい方法)は明白で示唆に富むような質問の形を取ればよい。
●例えば、「学生は関節を痛めるような力にはどのようなものがあるか、ということを理解するだろう。」というような形ではなく、「関節を痛めるような力にはどのようなものがあるか?」といったものにすればよい。
2.入れ子にされた目的(Nested goals)
TfU活動が2週間という短い期間だけでは目的は入れ子にはならず、半年間や1年間という期間のときに目的は入れ子になる。
○例えば、1年間の目的「人の関節はなぜ老化するのか」というものの中に、2週間の目的「関節を痛めるような力にはどのようなものがあるか」というのが含まれている、と捉えることができるだろう。
3.専門領域の中心である目的(Goals central to the discipline)
この視点を保持する方法は専門分野の理解の4つの特質を考慮して進むことである。4つの特質とは以下のことである。
−専門領域内の内容知識(content knowledge in the domain)
誤解や希薄な考えを避けること、そして良い統合された知識の構築をねらうこと
−専門領域内の方法(methods in the domain)
要求が正当化されたり探求が実施されたりする方法の理解をねらうこと
−専門領域の目的(purpose of the domain)
様々な専門領域や家庭内、その他の活動でプレーするその役割や専門領域、結果を認識すること
−専門領域内の表現(express in the domain)
専門領域に役立つ表現から作るものすべてを備えた設備をねらうこと
V.理解のための学習活動(Understanding performance) |
理解を伴った上での学習活動を「理解のための学習活動」と呼ぶ。理解のための学習活動の重要な特徴には二つある:計画された学習活動には学習者の@現段階の理解を表示することと、A理解を進めること、というものである。
理解のための学習活動も5つの基準がある。
1.理解のための目的に直接つながるもの(Relate directly to understanding goals)
理解のための学習活動は、教授活動で決められる理解のための目的に繋がる必要がある。
○例えば、目的が「人の関節は、一連の動きにどのように影響しているか」というものであるとする。そのときの理解のための学習活動は、スポーツ選手の動きを見て、どのように関節が人の動きに影響しているかを見ることがあるだろう。または、自分自身が実際に動いてみて、どのように動きに関節が影響しているかを見ることができるだろう。このように、目的を踏まえたうえでの学習活動が必要ということである。
2.練習を通しての理解の発展と応用(Develop and apply understanding through practice)
練習を通して、理解を深める必要がある。具体的な活動としては、学生が草案を書いたり、それを批判し、さらに訂正したりすることなどである。
○例えば、「人の関節は、一連の動きにどのように影響しているのか」ということを学習するために考えることとして、「関節を曲げないで動いてみるのと関節を使って動いてみた場合の違い」ということを検証する、ということが考えられる。そして、そのときに「重心を保ったり、スムーズに動くために関節はある」というひとつの結論になるとする。そのときの批判として「それならば、スムーズに動く、というのは関節がどのように動かせばよいのか」といったものがあるだろう。そして、関節を曲げすぎたり、曲げなかったりしすぎるとスムーズに動けないことを確認して、曲げる角度はどの程度がよいのか、といったデータを取る、といった訂正を重ねることで、理解を発展することができる。
3.多様な学習スタイルや形の表現の保証(Engage multiple learning styles and forms of expression)
グループ学習、個別学習どちらにおいても、理解のための学習活動は異なる学習スタイルや表現を認めるべきである。
●例えば、人の関節がどのように動きに影響しているかを説明するとき、学生によっては映像を使って、関節の動きを説明するかもしれないし(図1)、ある学生は、実際に聞いている人を指名して動いてもらい、そこで説明をするかもしれない。または、集めたデータをグラフによって説明する生徒もいるかもしれない(図2)。このように、様々なスタイルを保証する必要がある。
図2:データをグラフで検証
 |
4.挑戦的で、取り組みやすい作業における熟考した取り組みの促進(Promote reflective engagement in challenging, approachable tasks)
理解のための学習活動はただ行動するだけではなく、しっかり考えることを要求すべきである。そして、理解のための学習活動はただ親しみやすい学習活動だけではなく、より分かりづらい試行錯誤させるような学習活動も必要である。
○例えば、「人の関節は、一連の動きにどのように影響しているのか」という目的のとき、あるグループは「走りにおける関節の動き」について調べるとする。そのとき、足の速い人たちを数名呼んで、その人たちの動きを映像に撮り、分析し、まとめる、という学習活動を考えることができる。だが、このような作業が人によっては、簡単だと感じるかもしれない。そのような人は、さらに専門家に話を聞き、速く走るための関節の動きを調べ、それを撮影した人たちにやってもらい、実際に速くなるかを探求するかもしれない。このように、人によって簡単・難しいと感じるレベルは違うのではないだろうか。そのようなレベルをしっかりと把握して、適切な作業をしっかりと考えて行うべきだろう。
5.理解の誰にでもわかる明示(Publicly demonstrate understanding)
学習者は自分自身がしていることを把握するためにも、学習活動は可視的である必要がある。そして、他の人(同僚の学生、教師、親)はフィードバックを提供できるような位置にいる必要がある。
○例えば、「人の関節は、一連の動きにどのように影響しているのか」というゴールのとき、ワークシートみたいなのを作成して、客観的に見ることができる必要がある(資料参照)。
ワークシートの例
ワークシートの記入例
W.学習中の評価(Ongoing Assessment) |
学習者は有益なフィードバックを受けることで学習活動を洗練することができる。学習中の評価は教師や開発者に学習過程において常に素早く有益なフィードバックをする計画を立てることを求める。学習中の評価において、気をつけるべき点は4つある。
1.明白で誰にでもわかる、つながりやすい基準(Criteria are relevant, explicit, and public)
パフォーマンスのために、明白な基準を持つことは学習者を非常に助ける。
●例えば、ルーブリック(rubric)によって明白な基準を示すことができる。ルーブリックとは、3から5ポイントのスケール、「初心者」から「上級者」といったレベル付けでパフォーマンスを評価することができる、チェックシートである(資料参照)。
ルーブリックの例
2.頻繁に起こる評価(Assessment occurs frequently)
評価はどんな時にも行われている。
○例えば、先述したようなワークシートを作っているときを考えてみる(ワークシートの記入例参照)。これからの計画を考えるとき、岩手さんは「たくさんの人から、走るときに肘をどのぐらい曲げれば一番速く走れるかを調査するのがいいんじゃない?」と言ったとする。その話を聞いて宮城くんは「速く走るための関節の影響を調べるのだから、速く走る人に聞いたほうが、労力もそれほどかけずに、重要な情報が得られるんじゃない?」といったような回答をするかもしれない。その話を踏まえて、このグループは先生にアドバイスを仰ぎ、先生は「そうだね、みんなから情報を得るとすると時間もかかるし、課題の提出が間に合わないかもしれないね。そうすると、データを取るのは数人に絞ったほうがいいかもしれないね。」と言うかもしれない。このように、評価はどんなときでも行われている。
3.フィードバックの多様な情報源(Multiple sources of feedback)
フィードバックは教師だけではなく、他の学生や親などからもなされる。
○例えば、W−2で記したとおり、他の学生と議論になったり、先生からアドバイスをもらうといったこともあるだろう。もしくは、宮城くんのお父さんが「ビデオにとって、足が遅い人と早い人の関節の動きを比較すると面白いデータがとれるかもしれないよ。」といったようなアドバイスをくれるかもしれない。このように多様なところからフィードバックがなされる。そして、教師は評定をつけるといった公式的なフィードバックも行う。それは、ワークシートやルーブリックを見て、点数をつけたり、ポイントを記述したりするといったことがあるだろう(ワークシートの記入例参照)。
4.進展の測定をしたり計画を満たす評価(Assessment gauges progress and informs planning)
学習中の評価は進行状況を評価することや、計画を活気付けることの両方に役立てるべきである。良い個々の学生がどのように学習活動を行っているかを見ることによって、教師は
彼らの特有のニーズに対応することができる。クラス全体がどのように動いているかをよく見ることによって、教師は緊急な問題に対処したり、新たに察知したチャンスを汲み取ることができる。
○例えば、ルーブリックやワークシートを使って、各生徒がどのくらい作業ができているかを見ることができ、その作業の進行状況に合わせて教師、他の学生が適切な助言や、計画の変更を行うことができる(ワークシートの記入例参照)。
■関節(the joints of the body)に関するリンク集■ |
←トップへ
←鈴木研究室ホーム
←ソフトウェア情報学部ホーム
←岩手県立大学学内ホーム
by Kyosuke Okamoto,
Graduate School of Software and Information Science, Iwate Prefectural
University.
Sorry not to having an English version.