■教育工学とは、学習の過程と資源についての設計、開発、運用、管理、ならびに評価に関する理論と実践である。(米国教育コミュニケーション・工学会による定義;Seels & Richey, 1994)
■教育工学とは、学習を支援する道具(Artifacts)の開発と、その道具の使用技術の開発をする学問である。(佐伯胖、1990)
■教育工学は、人間の学習のあらゆる面に関与する諸問題を分析し、それらの問題に対する解決を考案し、実行し、評価し、運営するための人、手だて、考え、道具、組織を含む複雑な統合過程である。(AECT、1977)
■教育工学とは、教育者がより適切な教育行為を選ぶことができるようにする工学である。(東洋、1976)
そのための研究・実践の課題:
1、多様な教育手段や用具の特性の解明とその開発
2、学習者や学習集団の特性、用具や教材の性質、環境条件等、教育行為の効果と交互作用をもつ諸条件の解明
3、教育の諸目標を明確に定義し、その測定方法を開発し、所与条件のもとでのある教育行為の結果の解明
4、所与条件との交互作用のもとで、教育行為とその結果との関係の解明
■教育工学は、教育に関係した操作可能なすべての諸要因、すなわち、教育目標、教育内容、教授目標、教授内容のような教育情報教材・教具、教育機器のような教育媒体、教育方法、教授方法、教育環境、児童・生徒の行動、教師の行動やそれらの集団編成ならびに以上の諸要因相互の関係を分析、選択、構成、制御して、教育効果を最大ならしめることを実証的に、そして実践的に研究する工学であり、教育行財政、学校学級管理経営や知育、訓育、カウンセリングなどの教授活動、および教育情報の収集、整備、利用、時間割作成、出欠成績などの教務のような実践領域において、工業技術、情報科学、理学、行動科学、人間工学の成果を縦横に利用して、教育の効率化をはかる研究分野である。(坂元昂、1968)
■教育工学の第一の意味は、授業の目標を達成するために利用される、機械的あるいは光学・機械的道具、またはハードウェアの活用、つまり、科学技術の教育的応用を意味する(ハードウエアの活用としての教育工学)。第二の意味では、教育工学とは、必ずしもハードウエアに関係しない。むしろ”工学”という一般的意味において、基礎的科学の成果およびその応用を意味する。例えば、学習理論をその基礎科学として、他に、コミュニケーション理論、サイバネティクス、パーソナリティ理論、人的・物的資源に関する補給や経済学の理論等の他の基礎的諸科学の授業への潜在的貢献も検討する(ソフトウエアの活用としての教育工学)。(ラムズディン、1964)
教育工学の活動分野(中野照海、1979)
(1)新しい教授メディアの活用
(2)教授・学習組織の改善ー授業・教材の設計
(3)学習環境の整備ー建築・施設
(4)教育革新の方略と運用ーイノベーション普及研究
教育工学的思考の特徴(中野照海、1979)
ハードウエアとソフトウエアの両テクノロジーの教育過程への適用として教育工学が発展を遂げてきたことは事実であるし、これら、いわば「テクノロジーによる教育」としての教育工学の役割も重要である。しかし、現在の教育工学は、教育過程そのものをテクノロジーとしてとらえ直すという役割を担っており、この「教育過程を意識化する」方法として教育工学の役割をとらえる立場を、前者(「テクノロジーによる教育」)に対して、「テクノロジーとしての教育」という観点に立つ教育工学ということができる。(p.4)
現在の教育工学の基本的視点(中野照海、1979)
〜教育をテクノロジーとしてとらえて、教育現象を意識化するにあたっての、
いわば、教育工学的思考、または理念ともいえる5つの視点
(1)システム的思考〜教育現象をシステムとして捉える
授業要素の一つ(例:テレビ)を取り出してその教育効果を一般的に論ずることは不可能であり、授業システムに含まれる他の要素との関連によってのみ効果が明らかになるとする立場。
(2)柔軟な思考、または可能な多様性からの選択
自由な思考実験によって慣習に捕われた思考を排除し、教育現象を多様な視点から再認識、再検討することを迫る。伝統的な教育に対する批判として反伝統を固定化しない。機械化=教育工学ではない。
(3)問題解決志向〜Problem-oriented, Decision-orientedである
必要な事実、方法、概念、原理を「具体的かつ有用な教育目標を達成するために」集める。教育科学における研究の「現実離れ」に対する警鐘。
(4)一般化性への志向〜exportable(輸出可能)な情報を目指す
個別的、名人芸的現象に、あたかも幾何学のごとく理詰めに法則性や原理を確立しようとする。情報の着実な集積により「すぐれた教師の名人芸」の秘密を万人に共有することを目指す。個別の教育課題解決のなかに実証的研究の手続きを踏む(一般化への要請に応じるため)。
(5)実証的、帰納的思考
従来の教育研究があまりにも理論的・演繹的であったこと、教育行為における意志決定の基盤があまりにも慣習的であったことへの批判。研究と実践を橋渡しする役割。